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活動報告

2016/03/28

【Japan Today】21世紀の日本には抜本的医療改革が必要

先日、日本の情報を英語で発信しているサイト「Japan Today」から、当NPO理事長・西が背景取材を受けました。以下の画像をクリックすると全文をご覧いただけます。


http://www.japantoday.com/category/health/view/21st-century-japan-needs-radical-health-reforms

Kevin Rafferty (Health- Mar.18. 2016)


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(以下、日本語訳)


治療だけでなく予防的ケアに対し臨床家に報いるように見直された今回の健康保険制度の改正に対し、日本政府に賛辞を送りたい。それは、問題が起こってから対処する錠剤、飲み薬、注射、入院治療、手術だけでなく、疾患予防にも支払うという。


しかし、拍手喝采は保留しよう。今回の決定は、できること、すべきこと、しなければならないことに比べてささやかなワンステップだからである。日本は高齢者への費用できしむ健康保険制度の抜本的な改革をする必要がある。大きな要素は2つ、予防だけでなく健康的な生活に基づく全人的医療への変革と、歯科医師を現代の「拷問集団」とみなすのではなく完全に医療の範疇にもっていくことである。


これは、政府予算のために、また、すべての日本国民の幸福と健康長寿のために行われる必要がある。医療と社会保障への支出は、過大膨張した予算の最大構成要素であり、人口がグレー(白髪交じり)からホワイト(白髪)へと移るに連れ、さらに大きな問題となる。たとえ75歳まで働き続けるよう人々を説得できるとしても日本の納税者基盤は小さくなり、一方、増え続ける高齢者を支えるためにより金が必要になる。


これら政府の財政と人々の行動の確固たる問題に対する解決策の探求は、思いもよらない方向にある。大阪大学の林 美加子教授(そして私の妻)は、医療制度改革についての斬新なアイデアを持っている。彼女は問いかける。- 世界で最も蔓延している病気は何か?いや、答えは癌でも、心臓発作でも、肺炎でも、またマラリアでも、糖尿病でも、さらには腰痛のような日常的な痛みでもない。それは、歯周病とむし歯である。 


だが、世界的にヘルスケアを見れば、歯科は医療全体の中で「醜い妹」とみなされている。 「歯医者に行くより死んだほうがまし」とは、人々の好きなもの・嫌いなものを調査すると世界中で出てくる顕著な答えである。


林教授は古くからの言い伝えである "down in the mouth" という表現を引用する。これは体調不良を意味し、口腔の健康が全身の健康の証しとなることを示している。 加えて、もしある計画が "has teeth"であれば、成功の見込みがあり、 "teeth"や "bite"がなければ、真剣に受け取られない。高齢者を対象とした臨床研究では、歯が有る者は、たとえ入れ歯をしていても、活動的により長く生きる場合が多く、一方、歯が無い者は生活への欲求をなくすことも示されている。


賢明な現代の医者は口腔保健の重要性を認識している。米国公衆衛生局長官の David Satcher は、「口は全身の鏡である。それは病気の見張りであり、全身健康と幸福にとって非常に重要である。」と言った。カリフォルニア州の Deborah Greenspan 教授は、HIV / AIDSの早期指標は口の中の病変であることを発見した。大阪大学の仲野和彦教授の研究グループは、う蝕にかかわる細菌が重篤な心血管系疾患を引き起こすことを見つけた。経済学者たちは、歯科疾患が世界経済に毎年$4,400億の負担を及ぼしていると試算している。


しかし、日本の主要な援助機関であるJICA、世界銀行などは、歯科に言及することなく「ヘルスケア」を語る。林教授は、「世界銀行のサイトには 'health and disease' に関する出版物を3,531があるものの、検索ボックスに 'dentistry' と入れると結果は '0' 。」という苦い経験を思い起こす。


口腔保健、全身健康、健全な国家財政の関係についてのディスカッションを促進するために、林教授はこの2週間の間に2つの重要な会議を主催する予定である。最初は3月21日の国際シンポジウムで、"Good oral health as the key to good global general health"(グローバル世界の健康カギとなる口の健康)と題する*。もう一つは討論会で、英国歯科医師会会長で過去に英国King's College医歯薬部門での学部長も務められた Nairn Wilson 教授と林教授が、健全な予算内で全人的医療を創造するために医師と歯科医師がどのように協働できるかということについてディスカッションする#


2月の厚労省の決定は4月に施行されるが、医療分野全体で予防医療を促し、病院、医師、歯科医師、薬局に影響を与える。厚労省は、日本の健康保険制度が存続することを示しているが、健康保険制度自体は、今回の改正が十分に網羅していない緊急の処置を必要としている。


歯科の場合、新しい規則ではエナメル質初期病変のための予防処置に、登録診療所が月に2,600円1を請求できる。加えて、20歯以上ある患者に対して8,300円2、それより少ない数の歯ではより少額になるが、歯科医師3はサポーティブ・ペリオドンタル・セラピーとして請求できる。ここまでは良いだろう。しかし、改善された予防策は、本質的に疾病型である制度に上塗りされているのみである。それは歯科の場合では従来型の「削って、詰めて、請求」という制度であり、一般医科の場合は、病気による痛みが耐えられなくなってから医者に行くというしくみである。


アイルランド・コークで博士号を修めようとしている歯科医師の西真紀子さんは、患者一人あたり毎月2,600円は表面的には寛大だとする4が、適切な予防プログラムは初期病変に対する処置以上を含むとも加える。つまり、患者のライフスタイルを考慮したリスク評価5、毎月である必要はないが定期的な歯科来院での個々のパーソナライズド予防計画、アウトカムと改善のチェックである。


これに関して重大な問題が横たわっている。優れた予防処置の成功とは、病変、充填物、欠損歯がないままにすることだが、厚労省は常にしぶしぶお金を払う前に見える結果をほしがる。それは、「すべての歯科医師が天使ではない」と西歯科医師が顔をしかめてコメントするように、日本歯科医師会が長年の汚職疑惑もつことも影響しているであろう。 その上、日本の歯科医の古い世代は削って詰めるよう訓練されており、彼らはそのような切削と金属の詰め物から収入を得ているのだ。


大阪でのシンポジウムの主たるスピーカーであるオランダの教授 J.M. "Bob" ten Cate は、オランダで予防プログラムへの変換が失敗に終わったことがあったとコメントしたことがある。その理由は歯科医師がその変化の哲学を理解していなかったからだった。彼は「どんな修復治療も天然歯に劣る。機能的にも、審美的にも、耐久性でも。」と付け加える。


一般医療のシーンでは、ほとんどの日本人は家庭医に登録せず、腰痛、咳、湿疹などと訴えによって異なる医師のところへ行く。


一つの解決策は、キャピテーション制度に切り替えることであろう。その制度では歯科医師や医師は登録患者数によって収入を得る。この方法はスウェーデンでよく機能している6。スウェーデンでは人々の口腔保健は、日本や他のほとんどのヨーロッパ諸国に比較して優れている。両方の制度を研究した西歯科医師は、日本の全歯科医師の80%を占める開業歯科医がキャピテーション制度を受け入れるかどうか疑問視する。


日本の医療制度では、英国で起こったように歯科を二戸一化することなしにとどまった。人口の高齢化に伴う追加コストという厄介なすべての問題の他に、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の過少報告されている課題にも直面している。それが導入されれば、民間保険会社が医療というパイの一切れを得ようと騒ぎ立てくるのを見ることになるだろう。


厚労省は、制度を継続的に更新するというが、実際に行われていることは2年ごとに中医協(中央社会保険医療協議会)が既得権との間の戦いに対処していることである。日本はそのヘルスケアの哲学と、医療の実践的、政治的、社会的、金銭的な影響に新しい見方を向けるべき潮時にある。特に、人口の高齢化と厳しい予算による苦境がきつく噛みき始めている時なのである。- "teeth"、つまり効力のある執行手段が再び必要とされている。


解決策として、すべての日本人が健康番号を与えられ、共通カルテを管理するプライマリケア医と歯科医に登録し、健康、健康的な生活と予防ケアを治療の中心とすることを提案する。これはとりわけ臨床医による新たなアプローチが必要となるので、物議を醸すだろう。


最初のステップとして、「削って詰めて」が治療の中心ではないことを教育現場で強く認識し、真の予防スキームを理解した歯科医師を養成することであろう。医師と歯科医師のより親密な協働は必ず機能し、また大学内で開拓できると考える。


楽観的ではあるが、もし日本が医療を改革することができた場合、国家破綻を引き起こすような費用をかけることなく、21世紀を通してうまくいく新しいモデルを施行できると考えている。また、その新しいモデルを、特に皆保険を開発しようとしている途上国へ輸出できるだろう。健康的なヘルスケアを輸出することは、武器輸出国クラブに入るよりも日本にとって、また世界にとって良いことであろう。


* 2016年3月21日:グローバル世界の健康カギとなる口の健康:シンポジウム(英語と日本語の同時通訳あり)大阪大学中之島センター佐治敬三ホール10F 10:00-16:30

# 2016年4月06日:討論会:大阪大学歯学部:招待のみ

連絡先 okada-as@office.osaka-u.ac.jp

Kevin Raffertyはジャーナリスト、コメンテーター、世界銀行当局者、元大阪大学特任教授


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(訳註)

1「エナメル質初期う蝕管理加算」は、再診料(45)+歯科疾患管理料(110)+260で、415点になる。

2歯周病安定期治療Ⅱも上記と同様に、再診料と歯管を加えて985点になる。

3かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所が必要。

4国全体の負担を考慮すると、の意味。エナメル質初期病変は顕微鏡レベルではほとんど誰にでもいつでも生じうる病変だが、もしエナメル質初期病変の進行予防処置が毎月行われると一人あたり31,200円にのぼる。ちなみに現在(平成26年度)一人あたり毎年約22,000円が健康保険内の歯科医療費として使われている。

5リスク評価には患者のライフスタイルのみでなく、生物学的リスク因子も含む。

6スウェーデンの歯科医師は大半が公立歯科医院に勤務し、政府から支払われる公立歯科医院(伝統的に小児歯科を受け持つ)の運営費は登録患児数によるため、疾患の重症化を防げば防ぐほどその歯科医院の運営が楽になるしくみである。この意味でキャピテーション制だが、歯科医師個人の収入は固定給制である。開業医では、予防処置を含めた出来高払い制である。公立歯科医院における小児歯科の予防効果は高い評価を受け、小児の経験を、現在、スウェーデンの一部の公立歯科医院で成人に対して適用している。これをキャピテーション制度と呼んでいるが、歯科医師が登録患者数によって収入を得るタイプのキャピテーション制度ではなく、患者個人のリスク評価に基づき、患者が処置の内容にかかわらず、一定金額を、保険を運営する公立歯科医院の集合体に支払うしくみである。リスクの低い患者ほど保険料を低く設定されているので、患者自身がリスクを軽減しようという動機付けになっている。

(翻訳:西 真紀子)

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